170戸ほどの農村集落に計画された夫婦と子供たちの新しい家。
周囲の水田と集落内で育った樹木に囲まれたこの敷地の持っている穏やかな自然環境は、四季折々の豊かな変化を味わうことができる貴重な立地です。夏を涼やかに暮らすあいの風も気持ちよく周囲を吹き通ってきます。

一方、伸びやかな周辺環境に対して今回の敷地はL形の変形地で面積が小さく、且つ両面の敷地境界が隣家と道路に挟まれているという、たいへんプラン上の制約が多い敷地。プライバシーを守るための敷地の奥行きや空地の確保が難しい形状です。この敷地に良いプランを見つけるのは設計者にとってはたいへんな難題で、実際「これなら!」という案がなかなか生まれず、難産となってしまいました。

建て主さんから求められたのは家族が仲良く伸びやかに暮らすことができるファミリー空間を作ってほしい、というもの。よくあるようにどんとワンルーム形式でプランを作るのではなく、L、D、K、それぞれが必要な場としての機能と独立性を持ちながらも一体感も感じられるような、そんな場の形を段差や吹抜、素材の変化などを設計に用いながら試行してみました。

気持ちのよいファミリー空間のある家。
それぞれが落ち着いた場でありながらも一体空間でもあるファミリー空間。そんなファミリー空間を家の核(中心)としたプランが出来上がりました。

今回の敷地、いわゆる正面は道路面に大きく接している北側となります。
しかし、住宅プランはこの北側の道路面に対して大きな窓を付けるなど、通る人から覗かれるようなプライバシーを晒す形状にはできません。つまり、この建物では背面となる北面が敷地上の正面になるという形態の逆転が起きていることになります。背面(ウラ面)をファサード(建物の正面のこと)にするデザインとはどのようなものでしょう。今回の設計ではここが肝となります。この特徴を上手くデザインしたいと思いました。

背面(北側外壁)には今回、ダイニングから吹抜を通して空をみるための大きなはめ殺しの窓や室内にあいの風を入れる窓などいくつかの窓があります。これらの窓の大きさや位置、また外壁の色合いや建物の高さなどを総合的に検討して、控えめでありながらも傍を通るときに気持ちのよいプロポーションとなることを狙ってデザインを行いました。この外観が集落の景観の一つとなるとき、押しつけがましくなく気持ちのよい風景となって、集落の景観を引き締めるアクセントとなれば、と思っています。

この家はとやま市産材を構造材や内装材に使用して建てられます。富山市の補助事業にも選定されました。構造見学会や完成見学会も行われますのでぜひお出でください。時期はまた本サイトでお知らせいたいたします。

2013年1月完成予定